「三菱東京UFJ銀行」が
      抱える新たな火種


     旧UFJ銀行の「飛鳥会事件」で処分を受けた三菱東京UFJ銀行。
     通称「勝六」。約三万平方メートルの敷地が広がる東京湾岸
     「勝どき六丁目」開発には、旧UFJの暗躍があった。同地に建設中の
     「ザ・東京タワーズ(TTT)」は、その象徴というべきものだ。
                         (本誌・大沼雄次/佐藤星生)


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 勝どき六丁目(勝六)のTTT(ザ・東京タワーズ)は来春竣工予定で、いま、急
ピッチで工事が進んでいる大規模マンションである。

 事業主体は、オリックス・リアルエステート(オリックス)、東急不動産(東急)、
住友商事(住商)の三社によるジョイント・ベンチャー。事業費率は、オリックス六
〇%、東急三〇%、住商一〇%で、表向き、住商は「コーディネート役」に見える。
しかし、住商こそ「勝六」事業で大儲けをしている「和製ハゲタカ」にほかならない。

 住商の事業計画やIR資料、関係者の証言等に基づいた本誌推計によれば、住商はT
TT事業単体で八百億円規模の土地ビジネスをし、驚くべきことに、その大半を利益
にしている。


「超格安物件」の謎

「大儲けの種」を住商がいかにして手中にしたのか。それを検証する前に、TTTの
スペックを見ておく。

 TTTのメーン施設は、地上約一九二mの「ミッドタワー」と「シータワー」の二
つの居住棟。総戸数二千七百七十九戸(うち、UR都市機構の買い取りによる賃貸が八
百十八戸)、建築面積約二万平方メートル、延べ床面積は約四〇万平方メートルにも
上る。さらに、二五mプール、二層吹き抜けのジャグジーやスカイラウンジ等の豪華
共用施設も話題になっている。が、TTTが注目された最大の理由は、何といっても
その低価格だ。

「周辺相場は坪単価二百二十万〜二百四十万円だが、TTTの坪単価は標準グレード
住戸で二百十万円ほど。銀座まで歩いて十五分程度という都心物件としては記録的な
破格値だ。最安値物件の九九平方メートル四千六百六十万円という値付けには、大手
デベロッパーが一様に目を剥いた」(周辺不動産業者)

 事実、TTTは一昨年夏に販売開始されたが、「即完」(売り出し、即日完売のこ
と)の大盛況だった。

「勝六」がミサワホーム(ミサワ)から住商の手に転がり落ちるまでの流転の経緯は
別図を参照して頂くとして、ここでは金の流れを検証する。以下の「不可解な取引」
の背景には、当時、過剰債務を背負っていたミサワがメーンバンク・旧UFJ銀行(現
東京三菱UFJ銀行)の「銀行管理下」に置かれていた点を押さえておいて頂きたい。

 さて、「勝六」開発で住商が巨額の利益を手にする最大のカラクリは、土地の「売
買」にある。

 元の所有者・ミサワの子会社「ミサワシティ(シティ)」の「勝六」の簿価は八百
五十億円。関係者の証言等によれば、それを住商は百五十億円程度という破格値で取
得した。「マンション安売り」が、住商にとって何ら痛痒ではない道理だ。


「UFJ」と住商は連んでいた?

 さらに、ミサワが保有していた当時の二〇〇一年七月、同社の働きかけによって
「勝六」は中央区による「市街地再開発促進区域」の都市計画の決定を受け、区から
五十億円の補助金が導入されることが決まっていた。この補助金を差し引けば、住商
の実質の土地取得費は、百億円程度に過ぎない。

 来春竣工後、シティの簿価とほぼ同額の時価評価八百五十億円程度で買い主に区分
所有権が移転されると見られるので、住商は土地の売買益だけで、七百億〜七百五十
億円の利益を得る計算になる。

 バブル経済は、同じ住友グループの住友不動産が東京・神田周辺の土地を地上げし
たことから始まったとされる。手法は異なるが、当時と同様の「濡れ手に粟」の商売
を、住商は「勝六」でやったことになる。

 実際の譲渡価格について、ミサワ、住商はともに「守秘義務」を盾に回答を頑なに
拒否している。

 住商を「丸儲け」させるようなディール(取引)を主導したのは、ミサワのメーン
バンク・UFJ銀行。正式に住商への事業譲渡が発表されたのは〇四年一月。複数企業
の出資を募った上で、事業計画をSPC(特別目的会社)方式による共同開発に方向
転換することをミサワが発表した直後のことだった。

 ミサワが共同事業化計画を発表した前後の、UFJ銀行からミサワに対する「事業断
念」の働きかけは強硬だった。

 シティは周辺用地の買収等のためUFJ銀行から五百億円、ミサワから三百億円、総
額八百億円の債務を抱えていた。そこでUFJ銀行は、?ミサワはシティへの貸出二百
五十億円の債権放棄をする、?同時にUFJ銀行はシティへの貸出債権五百億円全額を
債務免除する??ことを引き換えに、「勝六」を住商に譲渡するようミサワに執拗に
迫ったのだ。

 もっとも不可解なのは、ミサワもUFJ銀行も、それまで住商と取引実績がなかった
こと。しかし、住商とUFJ銀行の間では話がついている様子で、どうせ外部に譲渡す
るなら複数の業者に入札させたいとするミサワの要求をはねつけ、「まず、住商あり
き」の姿勢をUFJ銀行は貫く。

 本社がある「晴海アイランド トリトンスクエア」を中核として勝どき一帯を開発
する構想を持っている住商にとって、「勝六」取得は自然な流れと公にはいわれるが、
トリトンスクエアから「勝六」までは、直線距離にして一km近くある。説得力に欠く
見方といわざるを得ない。


笑い止まらぬ「漁夫の利」

 謎を解く鍵の一つは、当時、UFJ銀行で「勝六」案件を担当していたのが、後に検
査忌避で逮捕される、早川潜元常務だったことではないか。

 早川元常務は〇三年十月の金融庁によるUFJ銀行の検査を妨害、当局から徹底マー
クされていた。「勝六」の住商への譲渡が固まる〇三年十二月前後は、内部告発も相
次ぎ、その年度のUFJ銀行の決算について、当局が引き当て不足を厳しく指摘しそう
だ、との緊張感が高まっていた。

 実はUFJ銀行側は、これより以前に住商に「勝六」の共同事業化を打診している。
だが、住商は足元を見て、話を断ったという経緯がある。

 検査忌避問題で追い込まれた早川元常務が不良債権処理に焦り、「勝六」を住商に
叩き売った、というのが真相の一端であるのは間違いないだろう。

 塩漬け債権が銀行の恣意により不当な価格で譲渡された事実が明らかになれば、三
菱UFJ・フィナンシャルグループは、金融庁から処分された「飛鳥会」問題と並ぶ、
UFJ銀行由来の新たな法務リスクを背負い込む可能性が高い。

 それにしても、「漁夫の利」を得た住商は笑いが止まらないだろう。天を切り裂か
んばかりに聳えるTTTの二本の巨塔が、「和製ハゲタカ」の止まり木に見えてくる。



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